ナベツネこと渡邉恒雄氏の評伝。いやー権力って素晴らしいですね。
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冒頭に渡邉恒雄氏が愛読しているというマキャベリの『君主論』からの引用で、「君主たる者は、わけても新しい君主は、政体を保持するために、時に応じて信義に背き、慈悲心に背き、人間性に背き、宗教に背いて行動することが必要なので、人間を善良な存在と呼ぶための事項を何もかも守るわけにはいかない。
またそれゆえに彼は、運命の風向きや事態の変化が命ずるままに、おのれの行動様式を転換させる心構えを持ち、先に私が言ったごとく、可能なかぎり、善から離れることなく、しかも必要とあれば、断固として悪のなかへも入っていくすべを知らねばならない。」という言葉が掲げられている。

この言葉通り、本書はいかに渡邉恒雄氏が権力闘争を続け、そして勝利していく姿を描いていく。勝利したのは「メディアと権力が手を握れば怖いものなどない」という身も蓋もない方法だ。ジャーナリズムの反権力精神は、権力と戦うがためにまた消耗もする。ならば、いっそ権力と手を握れば他の新聞に勝てるじゃないか、という発想の転換(笑)で本当に帝国を作ってしまったのが凄い。

このような方法は、読売新聞内部でも多くの敵を作る。しかしその敵を様々な方法で丹念に撃破していく姿は見事だ。しかも裏で糸を引いているのは渡邉氏である、という証拠を残していない。あくまでこの本で述べられているのは、渡邉氏に敗れた者達の意見であり、渡邉氏自体は工作への関与をほとんど否定している。

この本に描かれている渡邉氏の権力闘争は、潔癖な者からみれば邪道そのものだ。しかし、邪道に負ける正道とは何だろうか。渡邉氏に敵対するライバルは人格が清廉潔白な人が多く、その分脇が甘い。トップに対する不平を言ったら最後、渡邉氏はトップに告げ口をして葬り去る。(※渡邉氏本人は否定)。

私もずいぶん前、ある会社で、飲み会で社長に対する軽口を言ってしまい、同僚が社長にこっそり拡大して伝えて私だけボーナスが無かったことがある。私はそんなくだらん事をされるならと思って会社をあっさり辞めてしまったが、これは今思えば私の脇が甘かった。どんだけ目の前で仲良いふりをしようが、どんな方法でもトップのポイントを稼ごうと思っている連中はどこにでもいる。それもまた一つの生き方なんだろう。

渡邉恒雄氏は善悪を超越している人物だ。善だけで応対して勝てる相手ではない。このようなタイプの人が世の中、もしくは目の前に跋扈しているのだという事を知るだけでもこの本は必読だ。

渡邊恒雄 メディアと権力 (講談社文庫)
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新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)
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