週末は男闘呼組で沖縄にいってきたが、旅をもとに短編を作ってみた。

P1030305

「バッグを開けて良いですか?」

羽田空港の持ち物検査で、拳は係員に呼び止められた。う拳の「ええ」という答えと同時に係員はバッグを開くと、中からヌンチャクを取り出した。「X線で何かと思ったらなんですかこれは!困りますね、刃物じゃないですが、危険な物を機内に持ち込まないでください!」

拳は無言で手早くポケットから警察手帳を係員に見せ、「捜査に関わるものだ。通してくれ」と言った。手帳を見た係員はハッとして「失礼しました。どうぞお通りください」と言って、さっきまでの態度とはうってかわって拳に敬礼した。

P1030339

空港の外には大きな入道雲が出ていた。拳の後ろでやりとりを見ていた、褐色の肌をした女優のような顔立ちをした女が笑っていた。「なんでヌンチャクもってるの?捜査と関係ないんじゃない?」と親しげに拳に話しかけた。拳は顔を赤らめながら、「雪枝さん。関係なくもないよ。警察官として初めてヌンチャクの携帯を許された話はしただろう?」

雪枝はうなずいた。「警察がヌンチャクの採用を検討していてあなたはその実験役、だったよね?」

拳はうなずき言葉を続けた。「そう、ここだけの話だけどね。ヌンチャクの成果を早くみせて、本採用してほしいんだ。なので毎日持ち歩いて練習している。旅でさえもね。まあ、捜査とは関係ないんだけど」

「まあよくわからないけど、夢がかなうといいわね」と雪枝は笑いながら拳に言って、飛行機の乗り込み口に向かって歩き出した。拳は白い大きな帽子を被った雪枝の後ろ姿を見ながら、雪枝の夫が一ヶ月前に殺された事件を思い出していた。

「あなたの無実はいつか俺が保証してやる!方法はまだわからないけど」と拳は心のなかで思った。

話は1ヶ月前にさかのぼる。

■第1章 泣く女
雪枝の夫、清水悟が自宅で撲殺されているのが発見されたのは7月のとりわけ暑い日だった。当時、雪枝は外出しており、帰宅した時に夫の異変に気付き救急車を呼んだが、既に夫は酷い打撲と流血により死亡していた。家は荒らされ、現金と宝石類が消失していたため、警察は強盗殺人の疑いで捜査を進めていた。

拳は刑事ではないが、警察官として事件の捜査の補助を行っていた。今回の殺人がなんらかの恨みによる犯行である場合、犯人が再度襲ってくる可能性がある。そのため、念のために、事件後も雪枝の家は警備されていた。その警備を行っていた警察官の1人が拳で、警備するうちに、雪枝と拳は次第に言葉を交わすようになっていた。

犯人は見つからないまま数日が過ぎ、ある日、拳が雪枝の家の前で警備をしていると、家のなかからすすり泣きのような声が聞こえてきた。不審に思った拳が家のなかに入ると、雪枝が部屋の中で伏せて静かに泣いていた。「奥さん、大丈夫ですか?」と拳がしゃがんで雪枝に声をかけると、突然雪枝は拳の肩にだきついて、泣き続けた。「犯人の手がかりは見つかりました?」と、涙に溢れた目で見つめられた拳は、思わず硬直していた。

雪枝は切れ長の目をした女優のような顔立ちで、不謹慎だと思いながら、拳は「奥さん美人だな〜」と思っていたのだ。その奥さんの泣き顔も、また不謹慎ながら美しかったのだ。

「いや、まだ、、見つかっていません。すいません」となんとか答えた拳に、雪枝はなぜか顔をぐっと近づきながら「そう。家で泣いてばかりいても気がめいるわ。外にでて一杯のみたいけど、身が危ないのだったらバーまで付いてきてもらうってのは無理なのかしら?」と尋ねた。

拳は、内心大きく揺れ動きながらも、「いや、難しいです。今週は家にいてください。ただ、2週間後に警備は解除されます。そのあと、勤務外なら、個人的にお守りすることはできますね」と言った。拳は、自分が雪枝を守っているのか狙っているのかよくわからなくなってきていた。

「そう、じゃあ守ってもらおうかな」と雪枝は泣くのをやめて微笑んだ。その微笑みをみて、拳はまた不謹慎ながらドキリとしていた。

■第2章 大賀部長
「その女、怪しいわね」
と、拳の上司である大賀まゆみ部長が拳に言うと、拳は顔を真っ赤にして反論した。「あやしくないですよ。奥さんは夫が殺されたあと泣いて暮らしていたんですよ。バーに行くのも気晴らしとしては普通でしょう!」

大賀部長は眉毛ひとつ動かさず、「それは普通よ。でも、それをあんたに言ったのが怪しいのよ。あんたがそんなにモテるわけないじゃない」と言い放った。「それにあんたは女に騙されやすいし、近寄ってくる女も性格悪いじゃない。性格悪い女が、人がいいあんたを嗅ぎ付けてカモにしてんのよね。だから、あの女が警察側の動きを探るために、あんたを抱き込もうとしているかもしれない」

拳はさらに顔を赤くして、「ぜったいそんなことありません。あんな綺麗な人に限って。ボランティアも良くされている本当にいい人なんですよ!」と言い返すと、大賀部長はニヤッと笑って、「ボランティアをする人には2種類いるわ。いい人と、悪い人が罪滅ぼしのためにしているか、よ。あの人は悪い人かもしれないわね」と冷静に言った。

言い返せなくなった拳は、心の中で「ぜったいそんなことはない。雪枝さんだけは!」と思っていた。ちなみに、拳は女を見る目がなかった。

■第3章 赤坂のバー
赤坂サカスの裏側にある料亭風のバーで、拳と雪枝は飲んでいた。L字型のソファーの一端に座る雪枝の横顔は美しかった。「そう、まだ手がかりはないのね」と雪絵はうつむいた。「奥さん、捜査はこれからですよ。人員も来週から増強されるし、新宿署はこの事件にかなり力を入れるつもりですから」と拳が言うと、雪枝の目がなにか少し光ったように見えた。「ん?どうかしましたか?」拳が聞くと、「なんでもないの。でもバーでも気がなかなか晴れないものね。ちょっとは昔の、なんにも考えてない時代を思い出せるかなって思ったんだけど」という雪枝に、「昔、バーでよく飲んでたんですか?」と拳は聞いた。

雪枝は遠い目をしながら、「大学生の頃、銀座の倶楽部でバイトしてたの。色々な人に会ったわ。社長が多かったかな」と言った。拳はちょっと驚いた顔をして、内心「こんなに清楚に見えるのに、けっこう遊んでいたのかな?」と思った。繰り返すが、拳に女を見る目はなかった。

雪絵は昔の気分に浸りたいのか、昔の事を饒舌に語りだした。「色んな社長がいたな。芸能事務所の社長も多かったけど、一度彼らに誘われて沖縄に遊びにいったことあるわ。友達何人かと一緒だけどね。彼らの別送のプライベートビーチで遊んでたんだけど、有名なAV嬢まで来ていてびっくりしたな。彼女達って、仕事柄、水着の跡をつけれないみたいで、裸で泳ぐのよ、知ってた?」

「裸!?みんな裸になったんですか?雪枝さんも?」と拳がびっくりして聞くと「話を聞いてよ。彼女達だけだよ」と雪枝は静かに言って、昔話を続けた。「その倶楽部で嫌われてたのが、有名企業のサラリーマンだったな。30歳で年収が1千万超えているとか、そこの倶楽部に来ている社長達と比べたら全然低かったしね。そのくせ、態度だけ大きくて、サラリーマンがなに調子に乗ってんのよ、と女の子から評判は散々でモテながったわ」

「へー。意外だな。でっかい企業に入ったらモテるのかと思ってた」と拳はノンキに驚いていた。拳は、大学で空手部に夢中になり、卒業後もアメリカにいる空手の先生を頼ってヌンチャクの修行をするという、わけのわからない人生を送っていた。日本に帰ってきたものの職はなく、自衛隊でヌンチャクは活かせないので諦め、警察官になっていた。彼にとって、ヌンチャクが警察に本採用されることこそが夢だった。そんな彼にとって、大企業の生活は、想像できるはずもなかった。でも、「大企業でもモテない」と言うことだけを聞いて、「警察官でよかった!」と少し安心をした。拳はとてもシンプルな頭をしていた。

「そうだ、沖縄行かない?」突然、雪枝は拳に尋ねた。「おきなわ???」「そう。バーに来ても全然気分が晴れないんだもの。芸能事務所の話をしていて、沖縄の海を思い出したの。あの海のなかに入れば、気が晴れるんじゃないかな?だめ?」と雪枝は甘えたような顔を斜めに傾けて拳を見つめていた。その顔を見て、「OK!発車しマース!」と拳は思わず答えてしまった。繰り返すが、拳はよく女に騙されていた。

■第4章 沖縄へ
「有休をとりたい?」大賀部長が、怪訝な顔で拳を見ていた。
「はい。最近休んでなかったので、ちょっとまとめてとりたいな〜っていうか」と、拳は大賀部長から目をそらしながら小さな声で行った。大賀部長が怪しいと言っている女性と2人で沖縄と旅行なんて、全身が裂けても言うわけにはいかなかった。

「有休とってなにすんの?することないでしょ?まあいいけどさ」と大賀部長は拳を見つめながら大声でまくしたてた。拳は目を伏せながら、「実家の滋賀に帰ります」と答えると、「滋賀なんて何もないんでしょ?まあでもその方がゆっくりできるかもね。雪枝さんのことも忘れて休んできたらいいわ」と大賀部長がニヤッと笑った。

雪枝の名前をだされた拳はドキッとしながらも、冷静なふりをして、「では、ちょっといってきます」と告げて、その日は家に早く帰り、旅行の準備を始めた。次の日、待ち合わせの羽田空港の第一ターミナルに向かうと、雪枝はすでに待っていた。雪枝は、日焼け予防のためか、ツバの大きな真っ白な帽子をかぶり、大きなサングラスをしていた。

JALに乗って3時間、沖縄の海はすぐそこにあった。

P1030214

空港からホテルに向かう途中、「わあ〜海〜!」雪枝が声をあげた。台風が過ぎ去ったばかりなのか、空は青く澄み渡り、海は大きく広がっていた。ホテルのチェックインしようと拳がカウンターに向かうと、雪枝が付いてきて、「部屋ってどうなってますか?」と拳に聞いた。沖縄旅行の手配をまかされていた拳は、まかされていることをいいことに、雪枝と一緒の部屋にしていた。拳はドキッとしながら、「いや〜いまほら、オンシーズンだから高くてさ〜、別部屋にするとすごく高くなるんだよね〜」と弁明しようとすると、雪枝は「じゃあ、部屋追加する分、私が払うね。私寝相がわるいから、恥ずかしいし」とサラッと言った。

「そうか、寝相がわるいのか、そうか」拳は内心ガックリと思いながらも、雪枝にあっさり躱されているのにもかかわらず「沖縄はこれからこれから!」とポジティブに気持ちを切り替えていた。拳の取り柄は、バカだけどポジティブなところだった。

1日目はホテルについたのが16時だったので、今日はおとなしく那覇市内をブラブラしようと決めた2人は、沖縄の食材市場がある第一牧志公設市場に向かった。この市場は熱帯魚など、沖縄ならではの食材が生で陳列されており、1階で選んだ食材を、2階のレストランで調理してもらって食べるのが楽しい。楽しいけど大して美味しくなかったアオダイを食べたあと、ブラブラしてから有名な沖縄料理店「ウリズン」に行って、沖縄料理を堪能しながら、拳と雪枝は仲良く話し続けた。雪枝はお酒に弱いらしく、泡盛を一杯飲むともう酔いだしていた。

酔った目で拳を見つめる雪枝の瞳の美しさを堪能しながら、拳は、「この雰囲気だと、、、1日目だけど今夜にもいけるかも!」と内心おもっていた。ちなみに拳はとてもおめでたかった。そしてその夜、「じゃあ、明日起きたら電話ちょーだいね」とあっさり自分の部屋に帰っていく雪枝の後ろ姿を、弱気な拳はなすすべもなく見送っていた。

■第5章 渡嘉敷島
2日目は、ケラマ諸島の渡嘉敷島に高速船「マリンライナーとかしき」で向かった。海に入りたがっていた雪枝に、海を堪能してもらいたかった拳は、海の美しさで有名な渡嘉敷島の宿を手配していた。そしてまた、手配をまかされていたことをいいことに雪枝と同じ部屋を予約していた拳は「渡嘉敷島の数少ない宿じゃ、他の部屋といっても埋まっているはず。今日はもう一緒に泊まるしかないだろう。そうすれば、、、」と、透明な海の前で、よこしまな気持ちを広げていた。

渡嘉敷の海は、思ったより澄んでいた。岸からすぐそばにサンゴがあり、サンゴにまわりには熱帯魚がいっぱいるので、 シュノーケリングでも十分楽しめる。「わ〜すごーい!」と雪枝は水の中で無邪気に喜んでいる。拳も、水中メガネの左側に熱帯魚、右側に雪枝の水着姿を見ながら、「サイコーです!」と内心叫んでいた。

夢中で浜辺で遊んでいるうちに日が暮れ始めたので、2人は宿に戻った。この日の夕食はバーベキューだった。宿の人が、「目を離すと猫が肉をもっていくんで、気をつけてください」と言ったのであたりをみわたすと、いつのまにか目を輝かせた猫達に囲まれいてた。

P1030199

そして夜、浜辺近くのバーで2人で飲んでいると、元々酒に弱い拳だが、いつも以上に急に眠気が襲ってきた。「あれ?おかしいなあ??」とぼんやりとして拳がいうと、雪枝は「泳いで疲れたのかな?もう宿で休みましょうか」と言って、千鳥足になった拳の手を引いて部屋に向かった。部屋に入ると、拳はなぜかあまりに眠くて、ぐっすりと眠ってしまった。

夜中の3時くらいだろうか。拳はハッとして目を覚ました。雪枝は横で寝ているが、、手首と足首をロープで縛られている!「雪枝さん、まさか、やっぱり?夫殺しの犯人って?」拳が混乱してロープをほどこうともがいていると、雪枝が目を覚ました。
そして何かを口に含むと、いきなり拳にキスをした。「縄は、、ソフトSM???」と拳が驚きながらも喜んでいると、雪枝は口移しで拳になにかを飲ました。すると拳に急にまた眠気が襲ってきて、次に気づいた時は、もう朝になっていた。その時はもうなぜかロープで縛られておらず、雪枝は隣で寝ていた。

混乱した拳は、雪枝をゆり動かして起こすと、「昨日の夜はなんだったんだ?」と問いただした。「昨日はバーから帰ってきたすぐ寝たよ?変な夢でも見たの?」と雪枝はキョトンとしている。「夢?なのか??」拳は、よくわからなくなってきた。

■第6章 渡嘉敷の展望台
宿のある阿波連ビーチから、近くの展望台に向かって2人は歩いていた。その展望台からは海を一望できるそうだ。雪枝は今日も大きな白い帽子をかぶって、サングラスをしていた。雪枝を信じたいが、昨夜のことがまだ頭に残っている拳は、雪枝の帽子姿を改めてみて「日焼け帽子なのだろうけど、なんだか犯人が顔を隠しているようだな」という考えがふと思い浮かんでは、あわててその思いを打ち消していた。

展望台は思ったより遠かった。日差しが強く、汗がでてきた。拳が汗を手でぬぐうおうとしたとき、ハッとして拳は手首の一カ所を見つめた。そこにはわずかに、ロープの跡が残っていたのだ。ハッとして前を歩く雪枝を見すえた拳は、「雪枝さん、ご主人のことだけど、、」拳は話しかけた。雪枝は聞こえてないのか、なぜか振り返りもせず、答えもせず、黙々と展望台にむかって歩いていく。

P1030209

展望台にやっと付いた2人は、そこから雄大に広がる海を眺めていた。無言の雪枝に、拳は再び話しかけた。「雪枝さん、、いや、清水さん。ご主人のことだけど」と拳が言ったのと同時に、背後からガツンと誰かに殴られ、拳は前に倒れた。

倒れた拳がふりかって見ると、木の棒のようなものをもった若い男が立っていた。咄嗟に身をひるがえした拳は、「雪枝さん、危ない、逃げて!」と雪枝に向かって言った。すると驚くべきことに、その若者の所に雪枝は近づいて行き、男の腰に手を回して拳に向かって雪枝は叫んだ。「キモイんだよオッサン。シツけーんだよ。勘違いしてんじゃねーよ。お前を好きな訳ねーだろバーカ。何歳だとおもってんだ。私が好きなのはこの男だよ」といいながら、若い男の目を雪枝は愛おしそうに見つめた。

呆然とする拳は、「どう、、いう、、ことだ?雪枝、、さん?」と小さな声でどもりながらいうのが精一杯だった。

雪枝は「あんたも夫に似てて鈍感だよね。夫もこの男と付き合っているのに半年も気づかなかったのに、やっとあの日に気づいたんだからね。でもずっと気づかなかったら、あんなことにならなかったのに」

「あなたが、、やったのか?」拳の意識は、ここにきてようやく警官に職場復帰しようとしていた。雪枝は首をふった。「うるせえ!」と若い男が怒鳴った。「ノコノコ沖縄まで付き添いお疲れさん。もうお前は用済みなんだよ!」と男がバカしきった顔で拳を睨みつけていた。

拳はよく状況がわかっていなかったが、信じていた雪枝に裏切られ、若い男にバカにされていることだけは明らかだった。拳は、自分が泣いていると気づく前に、もうすでに泣いていた。「こいつ、泣いてるぜ。いい年したオッサンが泣いてるぜ!」と若い男が調子に乗ってあざ笑った。拳の涙が、腰に吊るしたヌンチャクに降りかかった。

「ヌンチャクが泣いている。お前達のために」拳がつぶやいた。言葉が終わる前に、拳はヌンチャウを取り出し、猛烈な勢いで振り始めた。その様子を見てあわてて棒で襲いかかってくる男の手首を、ヌンチャクの打ちが貫いた。「ガツッッ」鈍い音がして、男が木の棒を離して手首を押さえながら苦しみのたうち回っている。



拳は悲しい目で雪枝を睨み、ヌンチャクを握り直した。雪枝はなぜか微笑み「よかったね」と静かに言った。

「そこまでー!」拳の後ろから聞き覚えのある声が飛んでいた。振り返ると、大賀部長と、沖縄県警から出動したのか、大勢の警察官が展望台につめかけていた。

「待ってくれ!」状況がつかめない拳は、思わずヌンチャクを警察に向けた。その瞬間、大賀部長は舌打ちをして、腰から拳銃をとりだし迷いも無く拳を射っていた。
「え???」混乱した上に射たれて倒れる拳から、意識が遠ざかっていく。

■第七章 目覚め
拳が目覚めると、病室のベッドだった。「麻酔銃、だったのか?しかしあの後どうなったんだ」と拳が思っていると、大賀部長が「やっと起きたか。」と言って部屋に入ってきた。

「混乱しているようね」大賀部長がニヤッとして笑った。
「雪枝さんと男は捕まえたよ。あんたが沖縄に行っている間に、事件の捜査はあらかた終わっていたの。雪枝とあの男、大森豊は浮気をしていたの。その現場をたまたま体調をくずして家に戻ってきた夫が見つけ、争いになり、大森がはずみで旦那を殺してしまった。そして雪枝は大森を庇うため、強盗にあったと嘘をつき、大森を逃がしていた」

拳は目を丸くしながら「沖縄へはなぜ?」と聞いた。

「沖縄から船で中国に逃げる気だったようね。そして、あんたを同行させたのは、警察の動きを探るためよ。あんたは見事に抱き込まれていたわけ。警察官を同行するなんて危険な賭けだけど、あんたの騙されやすい性格を見て大丈夫だと思ったのでしょう。あんたが有休をとるといったとき、私はピンときて、あんたがいつも使っているカメラにGPSを仕込んで追跡していたのよ」

ポカ〜んとだらしなく口を阿呆のようにあけた拳が、「渡嘉敷の島で縛られてたけど無事だったのは?」と聞くと、「あのとき、近くに大森も潜んでいたのよ。恋人の前であんたが変な気を起こしたらややこしいでしょ。あんたに睡眠薬を盛って眠らせたうえで、念のため手足を縛っておいて、夜明け前にロープをほどいた、と雪枝は言っていたわ」

拳は自分がなさけなくて涙をポロポロとこぼした。

大賀部長は拳のあわれな姿をみてフッと笑い、「でも、あんたがいつか言ってたように、雪枝は本当はいい人だったのかもしれないし、あんたのことも気に入ってたのかもしれないよ」とやさしい口調で言った。

「どういうことですか?」拳は聞いた。
「展望台にいるとき、雪枝はもう逃げられないことを知っていたの。島がすでに警察に囲まれていることに気づいていたのよ。でも、彼女はあんたに捕まりたかったのよ。あんたの手柄になるようにね。だから展望台で、あんたに罵声を浴びせ、立ち向かわせた。大森を使ってヌンチャクまで活躍させてね。これでヌンチャクも正式採用されるかもしれないよ。あんたの夢だったんでしょ?」と言った大賀部長は続けて「あんたの有休、上に申請するの忘れてたわ。だから勤務中に捕まえたことにしとくからね」と言うと、豪快に笑いながら部屋を出て行った。

雪枝が最後に「よかったね」と言ったことを思い出した拳は、「雪枝さん」とつぶやき、渡嘉敷の海の中で、雪枝と一緒に泳いだ時間を、いつまでも思い返していた。

P1030211


おわり