「私が和室にいるときは、決して障子を開けないでください」
結婚したばかりの妻がまず言ったのはなぜかその言葉だった。

そして、毎晩妻は深夜1時になるとベッドを抜け出して和室に入るのだった。
そして和室からは、「バチーン!」「バチーン!」と、激しい謎の音が聞こえるのだ。

夫の圭一は、「なんの音だろう?」と思いながら、妻の言葉に従い障子を開けなかった。「しかし、音がするならなぜ普通の個室でやらないんだろう?」とも思ったが、そこはつっこまなかった。

半年が過ぎ、怪しい音は毎晩続いた。深夜に音が鳴り響くため、圭一は眠れなくなってきた。普段はおだやかな彼も、半年も熟睡していないとストレスがたまってきた。そして、「妻は一体なにをしているのだろう?」と、いまさらながら考え出した。

ある晩、いつものように怪しい音が鳴り響く時に、圭一はこっそりと障子の隅に指で穴をあけて覗いて見た。すると驚くことに、部屋には大量の陰毛が散らばっており、妻といえば、自分の股間にベンチをあてて陰毛を切断しているのであった。そう、妻は剛毛だったのである。

しかもその毛は並の太さではなく、カミソリでは刃が欠けてしまうので、ワイヤーを切断するベンチを使っているようだった。妻が毛をベンチで切断するごとに、まるで鉄のワイヤーが切断された時のように「バチーン!」「バチーン!」と音が鳴り響いていたのである。

妻の、今時めずらしくつつましい所が好きで結婚した圭一は、その剛毛ぶりに衝撃を受けた。股間から多数のワイヤーが生えたかのようなその姿は、つつましいというよりは、つきぬけていた。

しかし、しばらく圭一が覗いていると、妻はベンチを置き、ロウソクに火をつけた。そしてその火で、ワイヤーの切断面を焦がしはじめたのである。
そう、妻は、圭一が妻との行為中にワイヤーの鋭利な切断面でケがをしないよう、毛先を丸めていたのである。そしてその姿はまさに、つつましかった。

圭一は、その姿をみて、人を剛毛か、剛毛じゃないかで判断しようとした自分が恥ずかしくなった。圭一はそっと障子を離れ、二度と覗くことはなかった。




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山崎豊子さんの「不毛地帯」に触発されて書いてみた。