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「笑いがとまらへんな」カリスマ・マスクデザイナーのヒロはつぶやいた。
時は2009年冬、豚インフルブームの日本では、市街のマスク着用率は87%に達し、マスクを着用していない者は白い目で見られるようになっていた。

このブームに目を付けた出版社「金島」は、月刊「マスク」を創刊。様々なマスクのデザインやアイデアを紹介していた。そのなかでマスクデザイナーのヒロをカリスマと持ち上げ、ヒロ作のマスクを売りまくっていた。

悪ノリしたヒロと金島が「マスクに自分の名前を書くのがかっこいい!」というメッセージを冗談で発したところ、日本人の大半が「そんなもんかなあ」と思ってしまい、みんな自分がつけているマスクに自分の名前を書くようになっていた。

これにより、例えば電車で座っている乗客の名前がみんなまるわかりになり、向かいの人の名前を携帯で検索すればその人がどんな人かわかったり、その人のブログから、その人へメッセージを送ることができるようになっていた。

つまり、目のまえのまったくの他人同士が互いにネットで瞬時に連絡をとりあう、という状況が発生していた。これにより、特に電車での出会いが急増。電車自体が出会い系サイトに近くなっていた。

また、広告代理店「電王」は、マスクを広告として利用しようと思い、企業広告付きのマスクの無料配布キャンペーン企画をさかんに行った。

ここにきて、マスク着用率はとうとう98%を超えた。マスクをしていることが普通で、マスクをしてないものは異常者であると見られるようになっていた。テレビの出演者もみんな当然マスクをしている。

余談だが、後に豚インフルエンザは特効薬がみつかりとっくに解消されていたのだが、マスク文化はすっかり日本に根付いていた。「笑いがとまらへんなあ」マスクデザイナーのヒロは、またつぶやいていた。