GWヒマだったので、クローン技術が可能になるとどのような問題が発生するだろうか、という思考実験をしてみた。どんだけヒマやねん!

クローン問答
第一話 ユキエの誕生

「いやーしかし、性転換手術って思ったよりカンタンやなあ。案ずるより生まれ変わるが早しやな」と言いながらのんきにジローが家に帰ってきた。

女性になったジローを前に、ジローと同じクローンであるイチは呆然と立っていた。「なにいきなり女になっとんねん?」という問いに、ジローは逆切れ気味に言った「しゃあないわ。同じ家に同じ人がいるなんておかしいやろ。俺、一体誰やねん?お前と違う人になりたかってん」

イチはうつむきながら答えた「クローンやからこそ自分を主張したいのはわかる。自分が死んでも、他の自分がいるなら、そもそも自分ってなんやねん?というのは思春期のクローンやったら誰でも悩むわ。しかし事前に相談してくれても」

「もうしてしもうたからしゃあないわ。まあ許せや。おっぱい見せたるから」と言うジローに、イチはマジメに答えた。「性転換した自分のクローンのおっぱいかあ。見たところで興奮してええのか悪いんかわからへんな」

「おっぱいはすべて正しいんや。ええも悪いもないわ」とジローは上着を脱ぎながらケラケラ笑った。

うつむいていたイチも思わず顔をあげた。「これが俺らのおっぱいか。ジロー、お前立派になったなあ」とイチは妙な感心をしている。

「あと、おれこれからジローじゃくてユキエにするから。名前」とジローことユキエは言った。

「ユキエ!」とイチは復唱した。

第二話 ユキエ問答

ユキエは家の外の騒音に目を覚ましてつぶやいた「またあいつらか。。」と。
寝室から居間におりると、イチはすでに起きていた。
外では集団が「クローンは町から出て行け!」と叫んでいる。

「イチ、あいつらなんであんなにしつこいんや?」とユキエが問うた。
「俺らが怖いんや。クローンという存在自体がな」とイチは答えた。

■生命価値毀損問題

「なんでや?俺らコピーやけど完全に人間やで?」
「自分が量産可能である、ということは、彼らにとっては怖い事なんや。唯一やと思ってた自分が、印刷された用紙みたいになんぼでもコピーできるってことにな」とイチは答えた。

ユキエがまゆをしかめてつぶやいた「複雑なやつらやなあ」と。
「印刷技術ができるまで、一冊の本はそれはそれは貴重なもんやった。しかし印刷されるようになったら一冊の本の値段はがくっと落ちた。つまり量産されうるということ自体、一冊の価値は低くなるからな」
「しかしその本自体は広まるんやから、本全体では価値高くなるんちゃうの?」とユキエは反論した。

「うん、それがクローン世代の常識や、金稼いで自分のクローンを増やしたり、好きな人のクローンを売ってもらうとかな。不倫やら三角関係もクローンがあれば全部解決や。しかし昔の人らはその考えについてこれへんのや」
「新しいもんはなんでも抵抗にあうもんやなあ」とユキエはまゆをしかめた。

■ドッペルゲンガー問題

イチは話を続けた。
「あと、そもそも自分と似た存在は自分にとって怖いんや」
「自分と同じ人?ドッペルゲンガーみたいなもん?それ見たら死ぬって話も似てんのかな?」
「話の内容は違っても、同じ恐怖感やろな。テレビに出てるデブキャラが、他のデブキャラに対して役をとられると思って恐怖感をもつようなもんやな」
「自分と似てるキャラが自分のキャラの出番を危うくするのか」

■クローンコンパ問題

「あとコンパしたとき困るよな。ぜったい好きな子かぶるしな」
「いきなり話のレベル下がるなあ」
「まあええやん。そやからクローンはクローン同士でコンパすることも最近増えてるみたいやけどな」
「それ人数としては2:2やけど実質1:1やな。全然出会えてないわ」とユキエがまたまゆをしかめた。

■自己相姦問題

「また、自分のクローンに恋をする変態がでてきよったからな」
「きもいなあ」
「うん。性転換してるお前にいうのもなんやけど、自分のクローンを性転換させて自分を抱く自己相姦がオシャレ!とか雑誌の「実話マッドマックス」とかで紹介されてるからな。クローンのイメージダウンやで」
「しかしまあ、実話マッドマックスっておもろいよなあ」とユキエは答えた。

■クローン密売問題

「あと、アイドルやイケメンのクローンを高値で販売するクローン密売人増えてるしな」
「えぐいなあ。クローンっていっても人間やからな。立派な人身販売やで。でも俺もイケメンのクローン欲しいなあ」
「ユキエ、お前なかまで女になってきたなあ」とイチはまじまじとユキエを見つめ直した。

■クローン人権問題

「あと、クローンをどこまで元の人間と一緒の権利で扱うか、という問題もあるわな」
「最近あったなあ、クローンにも選挙権を、というクローン団体の活動が」
「うん。まあ選挙権あっていいとおもうねんけど、そうしたら選挙活動がややこしくなるからな」
「ややこしくなるってどういうことや?」
「選挙活動が、自分の支持者のクローンを増やすクローン量産競争に成りかねへんのや。まあそれを選挙違反にすればええだけやけどな」
「選挙するたびに文字通り人口水増しされたらかなわんなあ」

■生命格差問題

「あとは格差やな。金持ちほど自分のクローン作るからな。クローン高いし」
「生命格差っていま話題になってるなあ」
「金持ちは永遠に生まれ変わるからな。そやから金持ちの家はどんどん大家族になってるしないま。もう誰が親で誰が子供なんかわからんなってるけどな」
「自分のオヤジが子供で生まれてきてもどう接してええのかわからへんな」

■自己消滅問題

「しかしこう考えると問題だらけやな」というユキエに対し、イチは答えた。
「うん。しかし、ええこともある。クローンってのは人より悩みが少ないんや」

「なんでやねん?」
「自分と同じクローンを見ても、年をとるごとに人格は違ってくる」
「まあ環境や経験が違えばかわってくるわな」
「うん。なんで、自分の人格が仮想のもんや、という感想をクローンは持ちやすくなるんや」
「どういうことや?」
「もし自分しかいいひんかったら、自分の人格が、生まれつきのもんなんか、環境に影響をうけたんかはっきりわからへん。しかしクローンやと、生まれつきは同じな人がいるわけやから、生まれつき以外の差がわかりやすい」
「生まれたあとの人格の違いがわかってどうなるんや?」
「そうなると、人格が他のクローンと違う部分は、自分が勝手に作った仮想やと思うやろ。人格が仮想やと思うということは、それを変えやすいってことや。なんで自分の人格なんてなんぼでも騙せる、と思いやすい。例えばお前は性転換して女の体になって、徐々に人格も女っぽくなってきてる。元々は俺と同じやのにな」

「それが悩みがなくなるのとなんの関係があるんや?」
「悩みの原因は色々あるやろうけど、よくあるのが自分はこういう人やと思い込んでしまうことや。その自分と環境があってなかったら、その人は原因を絶対人のせいにする。自分が変われない以上、環境を変えなああかんからな。しかし環境はそんなに変わらへんし悩むわな」
「なんか精神論になってきたな」
「認識論や。どっちでもええけど。クローンやと、人格なんてアホみたいな仮想なもんやと思ってるから、自分を環境に合わせて変えてしまうわな。お前が性転換したように。そやから悩みにくいねん」
「クローンってあっさりしてんねんなあ」
「まあしょせんクローンやからな」

クローンの会話はつきなかった。時は2025年、場所は日本の首都滋賀のびわこシティ(2013年の関東超大震災により、東京は壊滅。地震に影響されない首都を作るため、びわこ湖上に浮遊都市びわこシティが建造されていた。標準語は当然滋賀弁となっていた)。もうすぐ夏がはじまろうとしていた。